親と専門家が協働して活動している会です。

事務局

アセスメント(評価)からはじめよう―不適切行動を考える―

投稿者:澤 月子氏
南山城学園スーパーヴァイザー
湊川短期大学非常勤講師

アセスメントとは

現在、私は、 南山城学園で職員研修の一部として、フォーマルアセスメントを行っています。

日々の困難に対する相談に対しては、インフォーマルアセスメントを実施してもらい、職員自らが気づくことを大事にしています。

熱心で一生懸命な職員に私の方がいつも刺激をもらっています。

不適応行動の背景にある支援の質を見直すこと、利用者の方達の生活の質を上げること、楽しみのある人生に少しだけお手伝いができるように、していきたいと思っています。

今回は、その一部をご紹介し、アセスメントが支援の第一歩になるようになれば
と願っています。

自閉症の人への支援をする際に「視力検査をしないで眼鏡を作るようなもの」と視力検査に例えられるのがアセスメント(評価)です。

私は、アセスメントには二つの側面があると思っています。

対象となる方の等身大の多面的な評価と同時に私たち支援する側が自閉症のある方に分かるように・できるように支援できているか、不適切な行動の引き金を作っていないかという 側面です。

サービス等利用計画や学校における個別指導計画には、本人のニーズという項目があります。ある時「給食をみんなと一緒に楽しく食べたい」という記述がありました。その生徒は、大勢の場が苦手 です。

偏食もあります。

結果はどうだったのか?

当然、強い行動障害が形成されてしまいました。

「みんなと楽しく」が本人のニーズではなく、周囲の欲求がすり替えられてしまった 悲劇です。

では、どうすればこの二つの側面の評価ができるのか、いくつかの例を通して一緒に考えていきましょう。

インフォーマルとフォーマルアセスメント

インフォーマルアセスメントは、主として日常場面の行動観察の記録や聴き取りです。

環境と行動の関係が分かりやすいことや興味・関心が把握できる良さがあります。

反面、どうしても主観的になりがちですし、その場にいない人との共有が難しいという点があります。

フォーマルアセスメントは、同じ道具や質問をたくさんの人に実施してみて標準化されていることや客観的であることが特徴です。

又、検査によっては、その個人の得手・不得手をプロフィール化でき支援方法を明確化しやすいという良さがあります。

そして、何より検査者が投げかけた問いに対するリアクションから、その刺激がどのように受け止められたのか、困った時にはどのように反応するのかなどが確かめられます。

反面、非日常的な場面で、評価される項目が限定的と言う短所もあります。

インフォーマルアセスメントは誰の・何をアセスメントするのか
~行動障害の場合

自閉
スペクトラム 症 の方の行動を見る時、海面に浮かぶ不適切な行動に目を奪われますが、氷山の下には、障害の特性やその方が経験してきたこと、誤学習など多くの見えない背景があります。

そして、それだけではなく環境という海水のありようを考える必要があります。

塩湖と呼ばれる 中東の死海のような塩辛い環境では、どうしても不適応行動がどんどん浮かび上がってくるでしょう。

だから、ご本人の特性と私たちの対応を含めた環境の2 つの側面を評価する必要があるのです。

どんな時に・どんなインフォーマルアセスメント をするのか

動機評価尺度(「行動動機診断スケール」で検索)行動の動機を知るために主観的につけてみる。

結果は、職員のとらえ方が同じであれば対応の仮説が立てられる。

職員によって違っていれば、場面や職員対応による行動の変化を見るためにABC分析を実施する。

実は、その行動がひどくなったり、なかなか治まらない時に見直すべきは、環境
の一部としての私たち(支援者・保護者)の関わりである場合が多いという事で
す。

「モノを投げる」という同じような行動であっても、投げたら身体がすっきりするといった感覚を求める場合、モノを投げたら別室で休憩したりお茶を飲めて課題や作業をしなくて済んだ場合、モノを投げたら誰かがやってきて関わってくれた(叱責も関わりの一つです)、モノを投げたら好きなものがもらえたなど、必ず、自分にとってメリットとなる周囲の反応があるからこそ、その行動はなくならないのです。

なぜか?が分かれば対応も分かります。

やるべきことを明確にする、適切な行動にこそご褒美を得られること、 野畑光代先生がBEAM 137 号 に紹介さ れた状況理解のための構造化が絶対 必要なのです。

そして、自分にとって意味のある目標・ご褒美と適切に相手に伝えることが出来る表出のコミュニケーションこそが、支援の 3 大目標だと思います。

ABC分析

引き金となる状況と職員の対応による行動の変化に対する気づき。対応が適切かどうかを知る。

24時間の記録

テンションの波&その行動はどの時間帯に多く見られるか、活動や睡眠、投薬の時間などとの関連を知る。

実践例|Aさん

1  動機評価尺度を実施してみて

失明してしまったAさんは、職員の腕を強く掴まえては、幾度となく旅行や帰宅の予定を聞いていました。

実際に評価をしてみると、職員それぞれの捉え方が全く違っていたことが分かりました。

次に、問いかけが行われる直前の状況や職員の対応を「ABC分析」表を作成して、日常場面で具体的に記入していきました。

2  ABC分析から分かったこと

原因として、やはり予定が気になるけれども表現の仕方が直接行動になっていたのではないか と考え、PECSの手法を用いて、失明しているのでかなり大きな持ち ごたえのあるボードを部屋に掲げ、午前・午後各 2枚( 2 回、聞くことが出来ます)、ボードを渡して質問する形に統一しました。

職員によって、その答え方に差が出ると余計に混乱するので、職員の答えも統一(答えのセリフを決めておく)しました。

今では、全くつかみかかることはなくなっています。

本当に穏やかになったA さんです。

一番、しんどかったのは誰だったんだろう?と教えてくれる貴重な例となりました。

実践例|B さん

24時間を追ってみたら

過飲水でトイレの水ま で飲んでしまう、身体に危険を及ぼす行動が見られた方です。

少し見づら いのですが横軸は24時間、縦軸は月日です。

24 時間のどこに集中しているのかで、その時間、何があるのか 足りない のかが見えてきます。

過飲水は適切に水分を要求できないことから起きていることが分かり、PECSでお茶の要求カードを 8 枚作りました。

現在は 4 枚でもOKになりました。

夜に集中していたのは、 寝る前の水筒がいつもらえるのかが分かりづら かったことにあったようで、ここでも職員が統一して提供の時間を決めています。

24 時間の記録は、支援の効果を確実に教えてくれますし、残る課題が何かを提起してくれるものだと言えるでしょう。

フォーマルアセスメントから

現在、重度の知的障害を持つASDの 成人の 方への細かなフォーマルアセスメントが少ないのが現状です。

ASDの小学校低学年用に作成されたPEP-3 (TEACCH ® が作成した自閉症・発達障害児のための教育診断検査)を使って、検査を行ってみました。
検査の時のリアクションから多くの発見がありました。

気になることをずっと聞いてきます。

ハサミで紙を切る際に「どこを切るんですか?どこまで切るんですか?」と。また、音声言語での理解が難しいことも分かりました。

この方には、かなり細かなスケジュール を提示する必要があるのではないかと考え、実践に移しました。

検査前と検査後、頓服薬の使用回数が以下の表です。

つまり、薬は一体なぜ必要だったのか?不安が高いことや本人の必要な情報が得られなかったことからくる、つまり私たちの支援の問題ではなかったのではな
いでしょうか?

フォーマルアセスメントを体験して~現場こぼれ話

実際の検査場面では、思いもかけないことが起きます。その一部を紹介します。
(T:検査する職員、C:利用者の方)

あるある 利用者の方の ビックリ反応 ~リアクションを見ることの大切さ

T「立ってジャンプしなさい」→C;その場を離れて、脱いでいたジャンパーを着る。(ジャンプの意味が分からずジャンパーと思った のかな?)

T「ドアをノックして壁に触りなさい」→C;ドアをノックして壁を背に座る。(「触る」が「座る」と聞こえたのかな?ご自身でも話す時に構音障害があり聞き間違いも ある)

T「今から私が言ったことをマネして言ってください、赤ちゃんが笑う」

(それまで「あめ」「からす」などはマネが出来ていた)→C;突然大声で笑いだす。(長い文章になると、キーワードに反応するのかな?)

◆あるある 職員の 失敗

言葉で表出する課題の時
T「これは牛です。これは何ですか ?」?」(答えを教えてドーするんだ!)

以上、職員は笑える失敗ですが、利用者の方の真面目な珍反応に、いかに分からない世界で一生懸命に応えようとしてくれているのかを感じます。

その反応を否定されたりすることがないよう、私達は、その方の理解に合わせた支援が出来ているのか、もう一度振り返る貴重な機会になりました。

フォーマル検査を半年間学んで~職員の中に大きな変化が生まれた(A職員の感想から)

第1回

検査のロールプレイを行う中で、普段、自分が用いている言い方が利用者にとっていかに分かりにくいかを気付かされた。

無意識に「図形」などと言ってしまった。

また、職員の動きによっても伝わりやすさが異なり、また、職員の動きによっても伝わりやすさが異なり、動作によって誤った情報を与えてしまうことがあることを知った。

第5回

伝え方が本人に合っていないためにできないのか、能力的に難しいのかを判断する必要があることを学んだ。

今後、やみくもに支援を継続するのではなく、支援が定着しない理由を考える習慣を意識したい。

第10回(最終回)

発語ができるからと言って必ずしもその人にとって言葉でのコミュニケーションが適切とは言えないということが分かった。

吃音のあるA さんは、聞き返されることが多い。

その人が伝えやすい方法を探ることが重要な支援だと感じた。

その人が伝えやすい方法を探ることが重要な支援だと感じた。

現在の喫茶時以外にもPECS を取り入れ、職員が事前に察して介入するのではなく、自発的なコミュニケーションを取ることが出来るよう支援を行いたい。