親と専門家が協働して活動している会です。

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【NHKハートフォーラム】
「自閉スペクトラム症の人たちとの共生社会について考える」開催のご報告

2021年12月12日(日)、滋賀県近江八幡市にあるG-NETしが(滋賀県立男女共同参画センター)において、NHKハートフォーラム『自閉スペクトラム症の人たちとの共生社会について考える』が開催されました。医療、教育、福祉など各分野の支援者、保護者など140名の参加がありました。

(共催|日本自閉症協会近畿ブロック)

NHKハートフォーラムとは

このフォーラムは、NHK厚生文化事業団近畿支局が主催し、日本自閉症協会の近畿ブロックが共催となって、ブロック内で担当を持ち回りしながら毎年開催されています。

昨年度は滋賀県での開催予定でしたが、新型コロナの影響で開催が中止になり、今年度は再び滋賀県でのリベンジ開催となりました。

講演1「障害を持つ息子へ~息子よ。そのままで、いい~」

講師は神戸金史氏

午前の部では、神戸金史氏(RKB毎日放送報道局 担当局長)による講演「障害を持つ息子へ~息子よ。そのままで、いい~」が行われました。

2016年7月26日未明に起きたやまゆり園事件、植松聖(当時26歳)が障害者19名を殺害、26名を負傷させた事件―。

事件直後、SNSには、心失者(意思疎通ができない障害者)を人間として養うためにはどれだけの人手と物資が奪われていくかを考えれば抹殺して何が悪いのかという植松の考えに同調するような投稿が少なからずありました。

神戸さんは、このような状況に怒りや憤りをぶちまけたところで同調者は喜ぶだけかもしれないと思いつつ、事件の3日後、泥酔した勢いで「障害を持つ息子へ」という手記をFacebook上に投稿してしまったのだそうです。

「本を書いてほしい」

翌日、Facebookは炎上し、テレビでも報道されましたが、出版社から本を書いてほしいという依頼があり、事件から3ヶ月後に出版されました。

■著書:障害を持つ息子へ 息子よ。そのままで、いい。

大阪の歌手、パギやんから、神戸さんがFacebookに投稿された手記に曲をつけて歌わせてほしいという連絡があり、曲が出来上がりました。

YouTubeで視聴できます。

障害を持つ息子へ  2016年7月29日Facebookより(全文)

私は、思うのです。
長男が、もし障害をもっていなければ。
あなたはもっと、普通の生活を送れていたかもしれないと。

私は、考えてしまうのです。
長男が、もし障害をもっていなければ。
私たちはもっと楽に暮らしていけたかもしれないと。

何度も夢を見ました。
「お父さん、朝だよ、起きてよ」長男が私を揺り起こしに来るのです。
「ほら、障害なんてなかったろ。心配しすぎなんだよ」
夢の中で、私は妻に話しかけます。

そして目が覚めると、いつもの通りの朝なのです。
言葉のしゃべれない長男が、騒いでいます。
何と言っているのか、私には分かりません。

ああ。
またこんな夢を見てしまった。
ああ。
ごめんね。

幼い次男は、「お兄ちゃんはしゃべれないんだよ」と言います。
いずれ「お前の兄ちゃんは馬鹿だ」と言われ、泣くんだろう。
想像すると、私は朝食が喉を通らなくなります。

そんな朝を何度も過ごして、突然気が付いたのです。

弟よ、お前は人にいじめられるかもしれないが、
人をいじめる人にはならないだろう。
生まれた時から、障害のある兄ちゃんがいた。
お前の人格は、この兄ちゃんがいた環境で形作られたのだ。
お前は優しい、いい男に育つだろう。

それから、私ははたと気付いたのです。

あなたが生まれたことで、
私たち夫婦は悩み考え、
それまでとは違う人生を生きてきた。

親である私たちでさえ、
あなたが生まれなかったら、今の私たちではないのだね。

ああ、息子よ。
誰もが、健常で生きることはできない。
誰かが、障害を持って生きていかなければならない。

なぜ、今まで気づかなかったのだろう。

私の周りにだって、生まれる前に息絶えた子が、いたはずだ。
生まれた時から重い障害のある子が、いたはずだ。

交通事故に遭って、車いすで暮らす小学生が、
雷に遭って、寝たきりになった中学生が、
おかしなワクチン注射を受け、普通に暮らせなくなった高校生が、
嘱望されていたのに突然の病に倒れた大人が、
実は私の周りには、いたはずだ。

私は、運よく生きてきただけだった。
それは、誰かが背負ってくれたからだったのだ。

息子よ。
君は、弟の代わりに、
同級生の代わりに、
私の代わりに、
障害を持って生まれてきた。

老いて寝たきりになる人は、たくさんいる。
事故で、唐突に人生を終わる人もいる。
人生の最後は誰も動けなくなる。
誰もが、次第に障害を負いながら生きていくのだね。

息子よ。
あなたが指し示していたのは、私自身のことだった。

息子よ。
そのままで、いい。
それで、うちの子。
それが、うちの子。

あなたが生まれてきてくれてよかった。
私はそう思っている。        父より

セルフドキュメンタリーの無料公開

神戸さんは、自身のご長男が知的障害のある自閉症で、2005年に「うちの子 自閉症という障害を持って」というご自身の家族を取材対象としたセルフドキュメンタリーを制作されており、その映像の一部が会場で紹介されました。

当時の息子さんの様子がよく分かり、父親としての苦悩が伝わってきました。

他方で、腹の据わった奥様の言葉との対比がとても面白く、奥様のお話をいつか伺ってみたいと思いました。

23歳になられた息子さんと現在はLINEで簡単なやりとりをされているそうで、お父さんへの誕生日のメッセージは素敵だなと思いました。

講演2 「発達障害のあるこどもと“きょうだい”の育ちを考える」

午後の部の始めは、吉川かおり氏(明星大学人文学部福祉実践学科 教授)による講演「発達障害のあるこどもと“きょうだい”の育ちを考える」でした。

子どもの成長に必要なものは何か、親から受ける影響、障害をきっかけに生じやすいこと、きょうだいへの影響、きょうだいが担う役割、保護者へのアドバイス、きょうだいへのアドバイスなどのお話がありました。

子どもの成長に必要なものは何か、親から受ける影響、障害をきっかけに生じやすいこと、きょうだいへの影響、きょうだいが担う役割、保護者へのアドバイス、きょうだいへのアドバイスなどのお話がありました。

きょうだいが担うことになる役割として

・にわかカウンセラー
・にわかホームヘルパー
・にわかガイドヘルパー
・にわか家庭教師
・にわかショートステイ事業者
・伝書鳩(メッセンジャー)
・権利擁護者

などがあり、親の愚痴の聞き役や大人の役割をするようになる結果、自尊感情が削がれることになるそうです。

きょうだいには

①優等生・ヒーロータイプ―良い子・頑張る子…燃え尽きやすい
②世話焼き・ケアテイカータイプ―思いやりのある子…自分のニーズ充足が不得手
③道化師タイプ―ユーモアのある子…感情の混乱、援助を得にくい
④いないふりタイプ―素直でおとなしい子…自己主張が苦手
⑤問題児タイプ―問題を起こす子…自分で自分を傷つける

といった5つのタイプがあり、これらのタイプはすべて自分の存在価値を認める力が弱いのだそうです。

保護者へのアドバイスとして

・きょうだい同士は誰でも「自分が一番」になりたいもの…障害のある子への罪悪感は置いておいて
・きょうだいとだけ過ごす特別な時間を持とう
・きょうだいへの愛が「条件付き愛情」になっていないか、点検してみよう
 …ありのままのあなたでよい
・きょうだいに、障害や対応方法について、分かりやすい言葉で伝えてあげよう
 …子どもは知りたい時が伝えてほしい時
・夫婦のコミュニケーションを良くしよう…家の中が安心安全な場所

と話されました。

きょうだいへのアドバイスとして

・あなたは生きているだけで価値がある
・情報を得よう、きょうだい同士で語ろう!…あなたは一人じゃない
・原家族から引き継いだものを整理しよう…苦しかったこと、良かったこと
・「自分」にとって価値ある人生を生きる…そのために必要なものは?

先生のテンポ良いお話に引き込まれ、我が身を、我が家を、きょうだいのことを振り返りながらお話を伺いました。

対談「親として“きょうだい”として安心な地域社会とは」

吉川氏の講演のあとには、藤井茂樹氏(大阪体育大学教育学部教育学科 教授)を進行役に、神戸氏と吉川氏による対談が、「親として“きょうだい”として 安全な地域社会とは」というテーマで行われました。

家族を孤立させないことが大事であること
一人で背負わなくてもよい
力を抜いてもいい
男性と女性の役割の変化…男性が変わらなければならない

「手を掛けるぐらいなら捨ててしまいましょう」(ある弁護士さんの言葉)
― 神戸さんがジャーナリストとして関わられた無理心中の8件の現場全てのケースに、明らかに自閉症と思われる子どもがいたそうです。加害者の大半は母親で、父親が加害者だったケースは1件だけだったそうです。

きょうだいがうまくいっているところはコミュニケーションが家庭の中で豊か
今を認めることができれば過去も認められる
開かれた相談窓口が必要
親が一生を抱えなくてよくなっている(サービスが整ってきている)
今の家庭の現状を見ながら、次のことを見つけていってほしい

日本では子どもの親権は親が中心ですが、イタリアでは親権の必要な部分については市長が権限を持っていて、親ができない部分は市長が責任を負うというお話は興味深いものでした。

また、親の会の多くは「専業主婦」がモデルとなって作られている(PTAも同じ)ので、共働きでもできるシステム作りや共働きを前提とした活動、若い親向き支援が必要であるというお話は、親の会運営を考える上で重要な視点だと思いました。

本人への支援、夫婦への支援、きょうだいへの支援、家族への支援などたくさんの情報やメッセージをいただきました。

次回2022年度のNHKハートフォーラムは6月11日(土)に京都で開催されます。京都府自閉症協会が近畿ブロック内での担当となります。